特に店舗の場合、事業の成否を左右する重要な要素に「立地」があります。店舗コンセプトに合致して、ターゲット顧客層を誘引しやすい立地を選定するためには、さまざまな視点で立地を見て分析・評価することが必要です。
まず、客観的に立地を評価するための方法を見ていきましょう。
出店を検討している商圏の調査をしていきましょう。具体的には、以下のデータを調べることで状況をつかみます。
集客を考える上で、人がどれだけいるか、は最も重要なことです。人口調査をするにあたっては、現在はインターネットで簡単に欲しい情報を入手することができます。市区町村など自治体のホームページではさまざまな調査データが公表されているので、出店前の調査に有効に利用することができます。自治体によって種類や出し方は違いますが、世帯数や男女別人口推移など、細かい人口調査の統計を調べることができます。
商圏の交通量・通行量を知ることも重要です。交通量は自動車が走る台数で、各自治体のホームページで主要な道路、特定の地点での交通台数を調べることができます。通行量は歩行者・自転車が往来する数を調べたもので、商店街などでの通行人数がわかります。店舗開業では有効な参考データになるでしょう。これも自治体のホームページで閲覧できます。
駅の乗降客数も把握しましょう。店舗立地を考える場合は、特に降りる人の数に注目します。降りる人は「その街にいる人」と考えられるからです。また、定期券の利用者数も有効なデータになります。単純に数だけでは出て帰ってくる人なのか、来て帰っていく人なのかはわかりませんが、安定的にその街に滞在する人数としてカウントできるからです。
これらデータは単体での状況把握のほかに、組み合わせて考えるとさらに有効に使えます。例えば人口数よりも乗降客数がかなり多い場合、よその場所からの来訪者が多い街だなとか、駅に降りる人はどの改札口から出る人数が多そうだなどの予測ができます。
動線とは、人や車の動き、流れのことです。例えば、車が高速道路のインターチェンジを降りた場合、どちらの方面に向かって動くのか、駅を出た人はどのルートをたどるのかなどを示す線のことです。動線を調査することで、人や車の動きの傾向を知ることができます。
出店計画に際しては、店舗の前面道路を中心に見ていくことになります。ここで重要なことは、「通行量が多い=売上アップには直接つながらない」ということです。単に通過してしまうだけのポイントであれば、通行量が多い場所だといっても集客力は低くなってしまうからです。ですから、動線調査を行う場合は、どの層の人がどの方向に動いているのかに重点を置きます。さらに方向の先に何があるかを調べることで、その目的の予測も立ちます。動線調査については、個別地点でのデータはまず存在しないので、自分で行うか、専門企業に依頼することになります。
「属性」とはこの場合、その土地はどのような場所にあるのか、と言い換えて考えられます。
人がたくさん集まるにぎやかな繁華街の客層は、主にその場所を目的としてやって来た人になります。または、近くまで来た人が「何かありそうだ」などと、何となく足を向けるということも多いでしょう。ですから、比較的土地感がない人が多いことも特徴です。すでに存在している施設や店舗の種類によって、集まる人の年代・男女比などがわかります。
〈オフィス街〉
オフィス街は、当然そこで働いている人々が多い場所です。基本的に学生や主婦、子供はあまりいません。終業後は家に帰ることになるので、一般的にはオフィス街は昼間に人が多く、夜間から朝にかけては人が少ないという特徴もあります。同様に休日の人出も少ないでしょう。また、平日には毎日同じ人が同じように過ごすという事情から、飲食店などでは固定客がつきやすいと言えるかもしれません。
そもそも出店の対象として需要が少ないため、まず競合が少ないことが特徴です。比較的賃料が安めでもあります。住民の潜在需要を引き出すような店舗コンセプトで出店すれば、長期で成功するケースもあります。
車での来店を主眼に考える場所です。交通量が多ければ集客がしやすいように感じますが、実際は難しい側面もあります。車で通行しているため、店舗そのものがなかなか目に留まりにくいという傾向があるからです。出店する際はドライバーの視点に立って、「店を見つけやすいか、店に入りやすいか」などを検討する必要があります。進行方向の手前や交差点など、目を留めやすい場所に看板を設置するなどの手だてが必要になるかもしれません。また駐車場に入りやすく、スムーズに出られるかも重要なポイントです。駐車可能台数も含めて安全面を考えることで、リピート率にもつながります。
前段でも触れましたが、立地の属性によってターゲットとなる客層を判断することができます。具体的にはオフィス街なら会社員がメイン、住宅街であれば主婦層がメインであるなどです。店舗コンセプトで想定している客層と、立地の属性が合致しているかをあらかじめ確認するようにしましょう。
取り扱う販売商品やサービスと候補立地が合っているか。前述の商圏データや動線の調査結果、立地属性に照らして、提供商品の需要が十分にある場所かどうかを判断していきましょう。
例えば、ラーメン店を出店する場合、競合店があったとしても繁華街や商店街の並びにあると、歩く人には認知されやすく入りやすいと考えられます。また、のれんをくぐってすぐに席に座るという一般的なラーメン店をイメージする人が多いとすれば、1階路面店舗が優先度の高い条件になるでしょう。
一方おしゃれな雑貨をゆっくり見てほしい、という店ならば、遊戯施設や酒類提供店舗の隣では入りにくく、ゆっくり見られる環境ではないかもしれません。やや見つけにくい路地の奥だとしても、「隠れ家」的な雰囲気に引かれる顧客層をつかめることも考えられます。
このように店舗コンセプトと店の見つけやすさ・入りやすさが合っていることは、とても大切です。ただし、たとえ「隠れ家」であっても、路地手前の通りに案内板を出すなどの誘引手法は必要でしょう。
出店予定の店舗に対する需要が、その立地にあるのかを考えます。例えば、薄利多売の大衆食堂を閑静な住宅街で出店しても、そもそも人の数が少なく平日昼間は主婦層がメインであることを考えると、大きく成功する見込みは薄いことがわかると思います。この店の場合、学生が多い地域やオフィス街などが需要と合致する場所と言えるでしょう。
店舗経営では、規模により従業員が必要になります。店舗コンセプトとも関係しますが、その店で働く従業員が通いやすいか、ということも考えておくといいでしょう。例えば、駅から遠くても主婦が働きたいと思う店ならば、近隣の住宅街に住む人からの応募が期待できるので、一概に利便性の良さが必要というわけではありません。
店舗経営で、「宣伝」は集客に大きな効果を発揮します。1階路面店舗は、空中店舗と比べてその場所にあること自体で「宣伝」になっているとも言えます。その他の立地でも、効果的に看板や案内板を出すことによって、十分に顧客誘引は図れます。それらの設置が可能かどうかを確認しましょう。